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東京地方裁判所 平成4年(ワ)15572号 判決

原告 小野塚千鶴

右訴訟代理人弁護士 水上正博

被告 株式会社エクイオン

右代表者代表取締役 金岡幸治

右訴訟代理人弁護士 河野純子

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が別紙物件目録≪省略≫記載の土地建物について別紙被担保債権目録≪省略≫記載の債権を被担保債権とする留置権を有することを確認する。

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件物件」という。)について別紙被担保債権目録記載の債権を被担保債権とする留置権(以下「本件留置権」という。)を有するとする原告が、本件物件について根抵当権設定登記を了した根抵当権を有し、これに基づき競売の申立てをして、その開始決定を得た被告との間において、原告が本件物件について本件留置権を有することの確認を求めているものである。

原告の請求原因は、以下のとおりである。

一  原告は、平成二年一月三一日当時、本件物件の所有者であった。

二  原告と訴外平和建物株式会社(以下「訴外会社」という。)は、平成二年一月三一日、原告が本件物件を代金一一億八二〇万円で訴外会社に売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

三  原告は、同日、訴外会社から右代金の内金四億五六五〇万円の支払を受けるとともに、残代金の内金三億四三五〇万円については、原告が同日訴外会社から買い受けた同社所有の宅地(東京都千代田区飯田橋四丁目七番八所在の宅地一三〇・四四平方メートルのうち、八一平方メートル)の代金三億六五〇〇万円の内金三億四三五〇万円の支払債務と対当額で相殺し、原告の訴外会社に対する本件売買契約における売買代金債権の残額は、三億八二〇万円となった。そして、原告は、現在、訴外会社に対し、右の債権を有している。

四  訴外会社は、平成二年二月一日、本件売買を原因とする所有権移転登記手続を了したが、原告は、本件売買契約締結後も現在まで本件物件を占有している。

五  被告(旧商号・株式会社カネタカ)は、平成二年二月一日、訴外会社から本件物件について極度額一三億円、債務者を訴外会社、被告を根抵当権者とする根抵当権の設定を受け、同日、その旨の登記手続を了した。

六  原告は、前記三、四項記載のとおり、本件物件を占有し、かつ、本件物件に関して生じた債権というべき三億八二〇万円の売買残代金債権を有しているので、本件物件について本件留置権を有している。

七  よって、原告が本件物件について本件留置権を有していることの確認を求める。

第三争点

一  本件訴えの適法性

原告が被告との間において本件物件について本件留置権を有することの確認を求める訴えの利益があるか。

1  原告の主張

本件のように根抵当権が実行され、競売手続に移行した場合には、留置権と根抵当権は、現実面において正面から利害が対立する関係にある。

すなわち、競売手続は根抵当権の価値の実現であるが、その根抵当権の支配価値の大小・範囲は、留置権の存否により著しい変動を受ける。また、将来の買受人としても、留置権者に対してその被担保債権を弁済しなければ本件物件の引渡しを受けることができないから、あらかじめ競売手続の中で留置権の存否等を明らかにしておくことが、手続の公正さの確保及び買受人の保護のためにも不可欠である。換言すると、根抵当権者としては、自らの競売申立てにより根抵当権の適正な満足を得るためには、その競売手続遂行に支障となる留置権の存否・内容について、競売手続終結前に確定しておくべき高い必要性が存在する。

そして、被告は、原告の本件留置権及び被担保債権の存在を全面的に争っており、競売手続の続行とあいまって、原告の留置権者としての地位は極めて不安定・危険な状態にさらされているから、この地位の明確化・安定化のためにも本件留置権の確認を求める利益は存するというべきである。

2  被告の主張

原告主張の確認の利益は、本件物件の買受人との関係において認められるものであり、根抵当権者たる被告との関係で本件留置権の存否についての確認を求めることは、無意味である。

すなわち、原告と根抵当権者たる被告との関係においては、仮に、原告に本件留置権があったとしても、それに基づいて競売の進行を妨げることはできないから、本件留置権の確認を求める実益は全くない。また、仮に、原告と被告との間において本件留置権の存否について確認判決を得ても、既判力は当事者にしか及ばないから、買受人は、この判決に何ら拘束されるものではない。したがって、原告と買受人との間においては、別訴を提起し、改めて本件留置権の存否について判断を求める必要があり、この意味でも、根抵当権者たる被告との間において本件留置権の確認を求める訴えの利益はない。

二  本件留置権の存否

原告が本件物件について本件留置権を有するか。

第三争点に対する判断

まず、争点一(本件訴えの適法性)について判断する。

本件訴えは、要するに、本件物件について本件留置権を有するとする原告が、本件物件の根抵当権者たる被告との間において本件留置権を有することの確認を求めるものであるが、根抵当権者は、当該根抵当権の目的物件について、その担保価値(交換価値)を優先的に把握するにとどまり、目的物件に対する使用・占有権原を有するものではないから、目的物件に対する留置権者との間においては、何らその留置権の行使を妨げる関係にはない。したがって、そのような性格の権利を有するにとどまる根抵当権者との間において留置権の確認を求める訴えの利益はないというべきである。この理は、右根抵当権者が右根抵当権の実行として競売手続に及んだ場合であっても何ら異なることはない。

また、右競売手続における目的物件の買受人との関係においては、買受人は、留置権者に対し留置権の被担保債権を弁済しなければ目的物件の引渡しを求めることができず(民事執行法五九条四項参照)、目的物件に対する買受人の所有権行使と留置権者の留置権行使は、性質上、衝突する関係にあるから、両者の間においては、留置権の確認を求める訴えの利益は肯認し得るが、買受人は、根抵当権者の民事訴訟法二〇一条一項にいう承継人に該当しないから、根抵当権者との間において留置権の存否について判決で確定しても、その既判力は、買受人に及ばないことは明らかである。したがって、この観点からみても、根抵当権者との間において留置権の確認を求める訴えの利益を肯認する余地はない。なお、競売手続において、目的物件についての留置権の存否は、その売却価額に影響するが、そうであるからといって、根抵当権者との間において、その存否を判決で確定してみても、右に説示したとおりその既判力が買受人に及ばない以上、法的には何ら意味のないことといわざるを得ない。

そうすると、本件物件の根抵当権者たる被告との間において原告が本件留置権を有することの確認を求める訴えの利益はないというべきである。

第四結論

以上の次第で、本件訴えは、確認の利益が認められないから、不適法であり、不適法であり、却下

(裁判官 横山匡輝)

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